歴史・時事

香港の逃亡犯条例改正案が引き起こした大規模なデモについて。一国二制度についても解説

 こんにちは、げんぼーです。香港は、ディズニーランドや100万ドルの夜景などが楽しめる世界的にもとても人気な観光地ですが、この香港が現在大変なことになっていることはご存知ですよね?

香港の街並み

 最近毎日のようにテレビで流れてくる香港のデモに関するニュース。香港の警察が若者たちを無作為に攻撃している映像なども目にした方は多いかと思います。

 しかし、今回のデモは決して最近に始まった話ではありません。それは、香港と中国の歴史を見ればよく分かります。というわけで今回は香港のデモについて、香港人は何を求めているのか、なぜ今回のデモは引き起こされたのか、歴史的背景と照らし合わせながら詳しく解説していきたいと思います。

 また、2014年の「雨傘運動」やキーワードである「一国二制度」についても詳しく解説します。

 今回は香港人の友達に現地の情報提供をしてもらい、それを参考にしながら記事を書いていきます。

香港とは

 香港のデモについて理解するためにはまず香港はどのような場所かということを知る必要があります。皆さんは香港が世界的に見てどのような位置づけなのかご存知ですか?中国の一部分なのか、それとも独立した国家なのか。まずは香港の歴史から見て行きましょう。

 香港は1997年までイギリスの植民地でした。そのため、香港人は母国語である広東語、中国語に加えて英語を話す人がとても多いです。

アヘン戦争

 イギリスが香港を統治し始めた経緯として、1840年から2年に渡って続けられたアヘン戦争にあります。当時の清は陶磁器やお茶をイギリスに輸出していましたが、逆にイギリスは清に輸出できるようなものがありませんでした。そのため、植民地のインドで栽培した麻薬であるアヘンを清に輸出することで、貿易を行っていました。

 しかし、アヘンは薬物ですので、中毒者が増えると国内は混乱します。大量のアヘンが輸入される中、清はこのままでは国が崩壊してしまうとして、輸入されたアヘンを全て燃やしてしまいました。これに対して重要な貿易品を燃やされてしまったイギリスは大激怒、これをきっかけに戦争が引き起こされました。これがアヘン戦争です。

「アヘン戦争」の画像検索結果
アヘン戦争(出典Wikipedia)

 アヘン戦争の結果、イギリスが清に勝利し、清の香港を奪い取りました。当時は帝国主義の時代ですから、戦争で負けた国は勝った国に領土を奪い取られます。日本も1894年の日清戦争で台湾を植民地にした歴史があります。そのため、香港はイギリスに永久割譲されました。永久割譲です。すなわち、アヘン戦争後から香港はずっとイギリスのものであるはずでした。

香港の返還

 しかしイギリスは、このまま香港の統治を続ければ国際的な反感を買うことを恐れ、中国に返還することを決めました。

 ただ、ここで問題なのは香港はイギリスの植民地のもとで言論の自由、表現の自由が完全に保障されていました。つまり、中国共産党の悪口をいくら言っても捕まることはありませんでした。しかし、香港が中国に返還されたらこの自由が侵されるのではないか、という懸念のもと、中国への返還時期が近くなってくると多くの香港人が海外に逃亡するという事態が起こりました。

 しかし、中国としては香港は観光やビジネスで大きな発展を遂げている場所でしたので、香港の経済活動がなくなってしまったら中国としても不本意です。そこで考え出されたのが「一国二制度」でした。

一国二制度とは

 一国二制度とは、香港自体は中国に返還されるけれども、50年間は言論の自由、表現の自由が守られた民主主義経済を認めるというものです。すなわち、香港は中国のものである代わりに、2047年まではこれらの自由が保障されています。正式には香港は「中華人民共和国香港特別行政区」という名称です。

「香港 国旗 フリー」の画像検索結果

 ただ、中国側としては、一国二制度は認めましたがせっかく取り戻した経済発展が進んでいる香港を自分たちのものにしたいわけです。そこで、香港のトップを自分たちの言うことを聞く人間にしようと考えます。

 そこで共産党は、香港のトップである行政長官を選ぶ選挙に関して、1200人の選挙委員が行政長官を選ぶという仕組みを取らせました。すなわち、香港の一般市民は選挙権を一切持たせてもらえなかったのです。ということは何が起こるでしょうか?

 そうです、これらの選挙委員は共産党の息がかかった者たちでしたので、行政長官は自動的に共産党系の人間になってしまうのでした。つまり、表向きは香港の人民たちに選挙で選ばれたことになっている香港の行政長官ですが、実際は中国共産党の支配下に置かれていたのです。

2014年 雨傘運動

 香港人は選挙権がないことに不満を持っていましたが、香港がイギリスから返還されたときに結ばれた香港基本法では、2017年から行政長官の選挙は香港の住民たちによる普通選挙に移行することが約束されていました。これにより香港人は民主主義を得られるだろうと思っていましたが、またもや問題が起こります。

 中国共産党は、この2017年から始まる新しい選挙制度は、普通選挙にする代わりに、立候補者は共産党が決めるという仕組みを取ることを決めました。(これは2014年の話です。)つまり、香港の人たちは選挙権を得ることになるのですが、中国共産党が決めた立候補者の中からしか選ぶことができないというものでした。

 これに対して香港の人たちは大激怒。どうして共産党が選んだ人間からしか選べないのか、ということで学生を中心にデモが起こります。これが「雨傘運動」です。なぜ雨傘運動と呼ばれているのかというと、多くのデモ参加者たちが傘で警察の催涙弾を防ごうとしたことが由来です。

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デモの様子(出典Wikipedia)

 デモ参加者は決して暴力は使わずに抗議を続けましたが、それに対して警察は催涙弾などを使って抵抗しました。この警察の醜態は2019年に行われた今回のデモと同じように酷いものでした。この警察の映像が香港の住民たちの同情を集め、香港政治に対する不信感が漂うこととなりました。

 しかし、およそ3ヶ月間続いた雨傘運動でしたが、香港の民政長官は共産党に仕立て上げられた人間です。学生の意見など到底受け入れてもらえず、雨傘運動は失敗に終わりました。

2015年 書店の店長失踪事件

 雨傘運動から1年後の2015年に、とても不可解な事件が起きました。香港では言論の自由が保証されていると先ほど紹介しましたが、香港で習近平国家主席や中国共産党への批判を書いた本を取り扱っていた本屋の店長やその関係者たちがある日突然消息を絶ってしまったのです。

 その失踪した書店員は、家族に「今深センにいる」という電話をしましたが、香港と深センは距離が近いとはいえ通行証がないと移動することはできません。その通行証が家に置いてあるのにも関わらずなぜ彼は深センにいるのでしょうか?

 翌年2016年の3月に彼らは無事に香港に戻ってきました。その時は何があったのか語ろうとはしませんでしたが、6月になって、「中国に拉致監禁されていた」ということを認めました。

 この事件が本当ならば、言論・出版の自由が認められている「一国二制度」を揺るがす大問題です。これ以降、香港の書店には共産党を批判する書籍が売られなくなりました。言論の自由が認められていながらも、事実上は共産党の悪口、批判を思うように言えないのが香港の現状としてあります。

2019年逃亡犯条例改正案

 前置きが長くなりましたが、このような歴史的背景があったかつ、この逃亡犯条例改正案を巡って今回のデモは引き起こされました。

 事の発端は、台湾で恋人を殺害した香港人が香港で逮捕された事件です。通常、殺害事件に関しては、その事件が引き起こされた場所の法律に従うことが原則なのですが、台湾と香港の間には殺人犯をどのように引き渡すのかという明確な規定がありませんでした

 そこで香港政府は、「中国、台湾から要請があれば容疑者を引き渡す」ことを可能にした「逃亡犯条例改正案」を提案しました。

 ただ、この改正案は中国共産党のコントロール下に置かれている香港政府が決めた案です。それは、香港の人たちにとってとんでもなく恐ろしいものでした。なぜなら言論の自由が守られているはずの香港で共産党の批判をして(または無実の罪を着せられて)、先ほどの書店員のようにもし中国政府に容疑をかけられてしまったら、身柄を中国に引き渡されてしまうことが可能になるからです。

 もしこの条例案が改正されてしまったら、とうとう香港の一国二制度が崩壊してしまう、自由が完全に無くなってしまう。として香港の人たちは命がけの戦いに出ることになりました。それが今回のデモの発端です。

 また、この条例案は香港にいる外国人にも適用されます。そのため、私たち日本人がもし香港で共産党に罪を着せられてしまったら中国に拘束される恐れがあるということです。

逃亡犯条例改正案撤廃

 2019年6月に本格化したデモですが、香港の人口730万人のうち200万人以上が参加する超大型のデモに発展しました。200万人と言えば香港の人口の4分の1以上です。お年寄りや子どもを除けば動ける人はほとんど参加していることになります。

 デモに対して警察は武力を行使して鎮圧していることはニュースでよく流れているかと思います。この長きに渡るデモの中で何人もの市民が警察に撃たれたり、殴られたり、さらには命を落としてしまう若者までいました。

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デモの様子(出典wikipedia)

 そこでようやく、2019年10月23日に香港政府は正式にこの逃亡犯条例改正案撤廃を発表しました。しかし、香港人は決してこの結果に満足することなく抗議を続けています。

 香港の人たちは香港政府に対して主に5つの要求をしています。彼らはこの5つの要求が認められるまで抗議は決して終わらない、と強硬姿勢を見せています。また、「五大訴求,缺一不可」(5大要求のうち1つも譲らない)という言葉をスローガンにしています。

 香港人が求める5つの要求とは、

 1. 逃亡犯条例改正案の完全撤廃

 2. 市民の抗議活動を暴動と定義したことの撤回 

 3. 拘束されたデモ参加者の釈放と不起訴 

 4. 警察の過度な暴力制圧の責任追及、及び独立調査委員会による警察調査

 5. 普通選挙の実現

 1つ目の逃亡犯条例は正式に撤回されましたが、未だにその他の要求は認められていません。香港のデモの中心として抗議活動を率いる周庭(アグネス・チョウ)さんは、逃亡犯条例の改正案撤廃の日に自身のTwitterで、これからも香港人は戦っていくと発言されていました。

今日、香港政府は正式に逃亡犯条例改正案を撤回しました。本当に遅すぎました。

この4ヶ月間に、何人が自殺したのか、重傷となったのか、目を失ったのか、性的暴力を受けたのか、殴られたのか、逮捕されたのか、もう数えきれません。→— 周庭 Agnes Chow Ting 😷 (@chowtingagnes) 2019年10月23日

張庭さんのツイッターより引用

2019年11月25日の選挙

 このようなデモが続く中、つい先日の11月25日に選挙が行われました。香港人が求める普通選挙とは、香港人が直接行政長官を選べるようになることですが、現段階の選挙では居住地区の区議員を選ぶことしかできません。

 しかし、この選挙で投票率は史上最高の71.2%を記録し、結果、452議席のうち388議席を民主派が獲得、親中派は59議席しか獲得することができませんでした。

 これに対して香港の民主派メディアは大々的に民主派の勝利を報じる一方で、親中派メディアは「今回の選挙は民主派によって不公平に行われた」と報じました。

 民主派の圧倒的勝利に終わった今回の選挙ですが、これに対して香港行政長官の林鄭月娥(りんていげつが)氏は民意を真摯に受け止めるとコメントしたものの、市民が求める五大要求は認めない従来の方針を続けることを改めて発言しました。

 また、中国の王毅外相は、「結果がどうであれ、香港が中国の一部分であることに変わりはない。」という強気なコメントをしました。このことからも、選挙で民主派が圧倒的勝利を収めたとはいえ、更なる緊張状態が続くことは免れないことが考えられます。

香港警察の過剰な行為

 さて、今回のデモの中で香港警察は到底防衛とは言えない過剰なほどの取り締まりを続けました。武器を持たない無抵抗の人間を撃ったり、催涙ガスをまいたり、連行した女性に性的暴行を加えたり、多くの犠牲者も出しました。

今日、警察とデモ隊が香港理工大学周辺で激しく衝突し、警察側は催涙弾、放水車、装甲車を使用した上、大学を封鎖して記者に構内から離れるよう呼びかけました。今、デモ隊や若者達は封鎖された大学に閉じ込められ、遺書を書いた人もいます。
30年前の悲劇(天安門事件)が今の香港に起きませんように. pic.twitter.com/YMQdKUDejK— 周庭 Agnes Chow Ting 😷 (@chowtingagnes) 2019年11月17日

張庭さんのツイッターより引用

このように、警察が狂ったように催涙弾を乱射していることが、香港市民の健康被害への恐ろしい脅威となってしまいました。→ pic.twitter.com/CgIwnWakSO— 周庭 Agnes Chow Ting 😷 (@chowtingagnes) 2019年11月19日

張庭さんのツイッターより引用

昨日、何もやってなかった、何の武器も持ってなかった若者の心臓を銃で狙った香港警察。 pic.twitter.com/Z90wotnB6U— 周庭 Agnes Chow Ting 😷 (@chowtingagnes) 2019年11月12日

張庭さんのツイッターより引用

  香港警察の醜態について詳しくはこちらをご覧ください。

まとめ

 香港の人たちは、このような犠牲になった人たちのためにも絶対に五大要求を政府に認めさせるという強い信念を持って、民主主義を勝ち取るために戦っています。何より私より若い高校生や大学生が命をかけて香港のために戦っている姿に本当に胸を打たれます。

 私たち日本人も決して無関心ではいられない状況です。ただ、日本のマスコミを通してだけでは実際に今何が起こっているのか不明瞭なことが多いです。

 この記事を読んで少しでも多くの方に香港で起こっている出来事について知ってもらい、関心を持っていただければ幸いです。最後まで読んでいただきありがとうございました。

ABOUT ME
げんぼー
大阪出身の20歳大学生です。大学から中国語の勉強を始め、1年生の夏休みに中国の蘇州へ短期留学をして、台湾の大学へ1年間交換留学をしました。 旅をすることが好きで、台湾本島一周や中国大陸横断ひとり旅なども経験しました。このブログでは、台湾の情報について主に紹介していこうと思います!少しでも読者さまにとって有益な記事を書けるように努めたいと思います!趣味はプロ野球観戦と写真撮影です! インスタグラムでは中国語話者向けに日本語を、日本人向けに中国語を教えるアカウントを始めました!よければそちらもご覧ください! @genbo_japanese HSK6級/TOEIC850点/英検準一級